作家になりたいぼくは……

3/3
前へ
/3ページ
次へ
 その日から、俺は心を入れ替えて、誰に読ませても恥ずかしくない小説を書き始めた。俺の全身全霊を小説に刻み付けてやる。  けれど意気込みとは裏腹に一行も書けなくなった。  一行書いても、ものすごく陳腐な言葉に感じて、すぐに削除してしまう。  俺は何も書けなくなった。  ただの一文字も書けなくなった。  こんなことは初めてだった。  何十日も何か月も書けなくなった。    俺から小説をとったら、なにも残らない。ただのクズだ。人間の形をしたクズだ。  俺はどうすればいい? 何ができる? 何もできない。小説しか書けなかったのに、俺は何も書けなくなった。  何かが間違っている。  生きている価値なんてない。  俺の心は不穏な暗闇に食いつくされた。  もう生きているのも嫌になる。  俺は何も悪くない。社会や大人のせいだ。  こんな社会は間違っている。  俺が正してやる。  目にもの見せてやる。    俺はキッチンで包丁を取り出して、普段から口うるさかった母親をめった刺しにする。  そして、血の滴る包丁を手にしたまま、近所の小学校に向かう。  こんな社会は間違っている。  なんで俺だけこんな目に合うんだ。  俺は間違ってないぞ。  いまから俺が証明してやる。  運動場から子供たちの笑い声が聞こえてくる。  俺はにたりと笑って、学校に侵入する。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加