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「コスモス、お好きなんですか?」
「え…?」
思いもよらなかった問いかけに、その人はコスモスを包装する晋也の手元から目を上げて、視線を合わせてくれた。
「いや…、あの。このところ、定期的に決まってコスモスを買っていかれるでしょう?」
「…ああ、はい。私が…というより、主人が好きな花なんです」
何気なく出てきたこの返答を聞いて、晋也はショックのあまり固まった。
この場合の主人というのは、結婚相手のことを指しているに決まっている。さらに、こうやって花を買って帰るくらいだから、その主人のことをとても愛していることが窺える。
晋也は、内心の動揺を押し隠しながら、笑顔を作った。
「ご主人は、こんな可憐な花を愛するような人だから、素敵な人なんでしょうね」
「はい」
何のためらいもなくそう答える、花の咲くような笑顔。……それがすべてを物語っていた。
やっと見つけ出せたと思った、本物の恋。晋也のそれは花咲くこともなく、あまりにも呆気なく散り去ってしまった。
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