コスモスが好きな人

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そうやって、尚人にとても愛されていることは分かっているのに、遥香はときどき潜在する不安を映したような夢を見る。同じ夢を、何度も繰り返し…。 尚人がどこかに出かけようとしている。そのとき、遥香は尚人と珍しく口論をしていた。ため息をつき、 「また、僕が帰ってから話し合おう」 と言って、玄関を出ていく尚人に、遥香は「いってらっしゃい」も「気をつけて」の声もかけることはない。 けれども、尚人の姿が見えなくなった瞬間、言いようもない不安に駆られる。たまらず、遥香も玄関を飛び出して、尚人を追いかける。 「尚人くん!」 遥香が呼んでも、尚人は振り返ることはなく、その姿はどんどん小さくなる。懸命に走っても追いつけなくて、遥香は泣きながら必死で尚人の名前を呼び続ける。 そして、とうとう尚人の姿が見えなくなって、いつもそこで目が覚める。 夢と現実の区別がつかない状態で、涙を拭ってリビングに向かうと、朝の陽射しの中に尚人がいてくれる。 『おはよう、遥香』 そして、いつもと変わらない優しい笑顔を向けてくれた。
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