秘められない想い

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夏の暑さの中に、秋の気配を感じ始めると、遥香は毎年尚人の好きな花を買いに行く。馴染みにしていた花屋に久しぶりに立ち寄ってみると、店主のおじさんが若い男に代わっていた。 その若者の説明では、この人はおじさんの甥っ子で、この店を継いだということが分かり、それからこの店を訪れた何度目かのことだった。 いつものように、コスモスを買い求めようとすると、肝心のコスモスが草臥(くたび)れた状態になっていた。 「ああ!すみません。どうもコスモスは水が下がりやすくて。こまめに水切りして、水揚げさせてるんですが…」 まだ経験が浅く、個々の花々の処理を一つひとつ習得するところまで手が回っていないのだろう。見るに見かねた遥香が、若い店主に声をかけた。 「コスモスは、お湯を使って水揚げした方が長持ちしますよ」 「……え?お湯?(しお)れたりしないんですか?」 「ええ、茹でてしまうわけじゃないですから」 知識のなかった店主は恥ずかしそうに言葉をなくしたが、思い切って遥香に向き直った。
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