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必死なお願いに、遥香の方も無下にすることができなくなった。とりあえず、注文が入ったときだけに限定して、遥香は晋也の店でアルバイトをすることになった。
「今日のお礼と言ってはなんですが、このコスモスは差し上げます」
そう言って、晋也は水揚げされてシャンとしたコスモスを大きな花束にして、遥香に差し出した。遥香も思わず柔らかい笑みを見せる。花束には、そんな不思議な力があった。
店から遥香を送り出した後、晋也は大きく息を吐いて深呼吸した。
――おい。相手は、人妻だぞ?!
ドキドキと高鳴る胸を抑えるのが、ままならない。
――しかも、旦那に心底惚れてる人だぞ?!
そう自分に言い聞かせても、晋也の心は止まらなかった。
せっかく自覚した本物の恋を、まだ終わらせたくなかった。現に、初めて遥香に会って、想いに気付いた日よりも、今はもっと深く強く「好きだ」と思う。
報われない想いだということは解ってはいたけれど、今はまだ、やっと見つけ出せたこの想いを温めていたいと思った。
それから、何度かアレンジメントの注文が入った。その度に、晋也は遥香に制作してもらい、『とても上品で可愛らしい』と評判にもなった。そんなところにも、遥香の人柄が透けて見えるようだと、晋也は思った。
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