秘められない想い

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けれども、晋也は真剣な眼差しで見つめて外交員を説得する。その整った目鼻立ちに、外交員の信念はあっけなく崩れ去ってしまった。 「佐川さん夫婦はね、まだ若くて可愛らしくて。二人で慎ましく暮らしてたんだけど…。旦那さんは技術者で、出張先の中東で爆破テロに巻き込まれて……。 遺体さえも分からない状態だったみたいね」 声を潜めて語られたその内容に、晋也は愕然として立ち尽くした。 その後、外交員は保険の商品についていろいろと説明して帰っていったが、どれも晋也の耳には入っていなかった。 その聞いてしまった事実は、晋也の諦めかけていた想いを再燃させる。自分の中に閉じ込めて、表に出さないように努めていた想いが、隠しきれずにあふれでてくる。 「好きです」 堪えきれずに、とうとうその想いを打ち明けてしまったのは、一週間後、仕事帰りの遥香がアレンジメントを作りに来てくれた時だった。 花々をオアシスに挿す手を止めて、訳が分からない顔で遥香が目を見開くので、晋也は説明をする必要に駆られた。 「佐川さんのご主人は、もう三年も前に亡くなったと聞いたんで…」 その事実を持ち出されて、遥香の表情に戸惑いが走る。それから、迷いを表すように目を逸らして、その視線を店内の花々に漂わせると、意を決したように再び晋也へと向き直った。
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