いつも側に…

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尚人がいなくなって、一年が経つ頃。遥香はいつも尚人がいたときにしていたように、ダイニングのテーブルにコスモスを飾ってみた。 『やぁ、コスモスだ。綺麗だね』 その時、尚人の声が聞こえた。レースのカーテンがそよぐ窓辺には、微笑む尚人の姿があった。遥香はやっと、二人のこの部屋が朝の光に満ちていることに気がついた。 幻を見ているだけだと、人は言うかもしれない。たしかに、実体はないのかもしれない。だけど、遥香にははっきりと見えるし、感じられた。二人でいた場所で、遥香が視線を向ける先に――。 抱きしめてくれなくてもいい。触れられなくても、触れてもらえなくてもいい。そこにその存在を確かめられるだけで、心の中に立ち込めていた暗い霧が晴れていくようだった。 また、遥香は尚人と一緒に暮らし始めた。少しずつ元の生活へと戻って、仕事を探して働き始めた。人に笑顔も見せられるようになった。 そして――……、 「このことを話すのは、佐山さんが初めてです。……頭がおかしいと思われるかもしれませんが、私が今こうしていられるのは、あの人が今も側にいて、一緒に暮らしてくれているからなんです」
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