いつも側に…

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晋也はそれを聞いて、なにも言葉が出てこなかった。 〝頭がおかしい〟とは思わなかったが、とても現実の話だとは思わなかった。悲しみに打ちひしがれた心が、幻を作り上げて必死で適応しているのだと思った。 ただひとつだけ確かなことは、遥香はまだ尚人の妻で、まだ尚人を愛しているということだ。いくら晋也が想いを寄せても、同じ想いは返してくれない。 「どうして……、俺にだけ、そのことを話してくれたんですか?」 不意に出てきた晋也の質問に、遥香は視線を合わせて恥ずかしそうな顔を見せた。 「こんな私を好きになってくれたんだから、きちんと本当のことをお答えしなきゃと思って」 晋也はそれを聞いて、胸がいっぱいになった。自分の想いをきちんと受け止めてくれているだけで、こんなにも嬉しいなんて、思いもしなかった。 やっと見つけたこの想いを、これで〝終わり〟にするなんてできなかった。 お互い、次の言葉が出てこなくて、沈黙が店内に漂った。遥香はおもむろに再び手を動かし始めて、晋也はじっとそれを見守った。
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