コスモス畑

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瀬山高原へ行く日までは、それから2週間の時間を要した。 一般的に見ればデートのようなもの。でも、晋也と遥香のそれは、そんな雰囲気のものではなかった。晋也の運転する花屋のワゴン車の中には、お互いの物思いが浮かんでは消えていく。 「……今も、尚人さんが側にいますか?」 不意に晋也が、助手席に座る遥香に尋ねてみる。すると、遥香は眺めていた山の稜線から隣にいる晋也へと視線を移した。 「いつもあの人がいた場所や一緒に行った場所では、側にいると感じるんですけど、今はあの人のことを思い浮かべるというか……。こうやって眺めている山の向こうにも、花畑を吹き渡るそよ風の中にも。あの夜明けの空の色の中にも、瞬く星の光の中にも。私に語りかけてくれているあの人の息吹を感じるんです。……だから、あの人が生きていた頃よりも、いろんなものをしっかりと見るようになって……、見えていなかったものが見えるようになりました」 それを聞いて、晋也は初めて遥香に出会った日のことを思い出し、気がついた。あのときの遥香は、まさにその景色の中に尚人の存在を見ていたのだと……。こうやって尚人を思い出す遥香が一番綺麗で、一番晋也の好きな遥香なのだと……。
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