コスモス畑

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ドライブすること2時間ほどで、コスモス園に到着した。 緩やかな丘陵に、見渡す限りのコスモスの花々。好天にも恵まれ、穏やかで爽やかな風が吹いて、色とりどりのコスモスの花を揺らしている。晋也と遥香は、その中の遊歩道をゆっくりと歩いて、園内を見渡せる小高い丘を目指した。 「尚人さんとも、この丘まで来てたんですか?」 丘の上に到着して、そこに立つ木の影に入ると、晋也はホッと息をつきながら遥香に尋ねた。 「はい……」 遥香はかすかな声で返事をするだけで、ひたすらに一面のコスモス畑を見渡している。きっとあの視界の中に、尚人の姿があるはず……。晋也はただそっと、遥香のその横顔を見つめ続けた。 しばらく経って、遥香がポツリと口を開いた。 「あの人が出張する前に言ってたんです。帰って来たら、ここに来ようって…。だけど、それは叶わなかった…」 そう語る遥香の声が震えてくるのに、晋也は相づちも打てず、祈るような気持ちで見守った。 「それどころか、私…!あの日は、あの人と言い合いをしてて…。子供のこと。あの人は子供がほしいって言ってたのに、私は仕事が忙しいからダメだって聞く耳持たなくて……」 『産むのは私なんだから、尚人くんは無責任なこと言わないで!』 「出かけるあの人に、酷いこと言って送り出してしまったんです。まさか、あれが最期(さいご)になるなんて思わなかったから……!」
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