コスモスが好きな人

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夜明けの空気がラベンダー色に染まる。こんな空に出会えると、尚人に出会った日のことを思い出す。 自転車のハンドルを握りながら、日が昇る様をじっと見つめていた尚人。そのとき高校生だった尚人に、遥香は恋をした。 それから十年以上が経っていても、こんな空を見上げると、遥香の心はあの頃と同化する。あたかもそこに、尚人が立っているかのように……。 初めは遥香の一方通行だった。ずっと好きで好きで、その気持ちをためらうこともなく尚人に伝え続けた。真面目な性分の尚人は、適当に付き合うことなどできなかったらしく、なかなか応えてくれなかったが、少しずつ想いを育てて……、 「君が好きだよ」 と言ってくれたのは、高校も卒業する間際のことだった。 大学は別々のところに進学したけれど、ゆっくり育てた想いは簡単に壊れたりしなかった。逆に、たまにしか会えなかったから、想いは鍛えられ深まっていった。 就職活動をするときには、結婚を意識していた。だから、お互い遠くに行ったりしなかった。
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