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不意に虚しさに襲われ、暗い気持ちで俯く私の手元で、ラインの通知が鳴り響いた。
誰? こんな夜中に!
午前3時に一人遊びをしていた事を棚に上げ、慌ててスマホを確認する。
『いーち』
『にーい』
発信者のアイコンは、金髪に青いリボンの少女のイラスト。
一年前、事故で死んだ橘ありすが使っていたもの。
誰がこんな悪趣味ないたずらを。
僅かな思考停止の後、今夜のひとりかくれんぼの事を、学校で誰に話したか必死で思い出す。
『さーん』
『よーん』
いない。
だってそうでしょ?
今夜ネットサーフィンで、思い付いた事なんだもの。
『ごー』
『ろーく』
玄関のほうで微かな物音が響く。
背筋が氷柱になったかのように、身体が固まった。
『なーな』
『はーち』
そうだ、泥棒だ。
車はなく、家中真っ暗。留守宅だと思って……
縺れる思考と足元のまま、音を立てないよう自室に転がり込み鍵を掛ける。
『きゅー』
『じゅっ』
慌てるな。警察に電話して――
せわしなく揺らぐ視線が、モニタに照らされた机の上で止まる。
ガラスにひびの入った懐中時計。
ありすのお気に入りだった品。
『それじゃあ、いくよ』
一段一段。
ゆっくりと階段を登る足音が聞こえる。
誰だ? 何処に?
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