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ありすゲーム
ひとりかくれんぼという遊びがある。
夜中に人形相手にかくれんぼをするうち、様々な怪異が起こるという。厳密には降霊術の類だろうか。
私がこんな酔狂を始めたのは、ありすのメールを読み返し、感傷的な気分になったから。
父は単身赴任、母は婦人会の温泉旅行中。この家にいるのは私だけ。
テニエルデザインの、アリスのぬいぐるみを連れ浴室へ向かう。本来なら詰め物を抜き、米と自分の爪を入れ、赤い糸で縫い直す。だけど、ありすからの初めてのプレゼントを、そんな目に合わせるつもりはない。
右手に私の髪を一本、左手に赤い糸を括りつけ、空の洗面器に横たえる。
「最初の鬼はましろだよ」
洗面器を残り湯を張ったままの浴槽に浮かべ、自室に戻る。
灯りを落とした部屋をパソコンのモニタが照らしている。10数えた後、スマホの明かりだけを頼りに浴室へ戻る。
ぬいぐるみは洗面器の船の中、同じ姿で揺られていた。
「ありす見付けた。次はありすが鬼だよ」
タッチの代わりに、黄色い毛糸の髪を束ねる青いリボンを整える。
にっこり笑顔のぬいぐるみに、記憶の中のありすが重なった。
もう止めよう。こんな事をしても、ありすには会えないのに。
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