壱、 嗚呼、憧れの混成弓道部

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 僕の答えを待たずに小声でそう呟いたあずみは、満ち足りた表情で顔をくしゃくしゃにした。その言葉は本来なら、古めかしいままとか、事件の傷が今も生々しく残る――なんて意味で使うのだろうが、彼女のレトリックは違う。  その瞬間がすべて。  それは意外にも、そのときの僕の気持ちも代弁していた。  弓を戻しに駆けていくあずみの後ろ姿を眺めながら、一目惚れってこんな感じなんだと、ぼんやり思った。 「実乃里さんのこと、どう思う」 「うわあ!!」  背後からいきなり耳元で囁かれ、全身に鳥肌が立った。  振り返ると、言葉通り目の前に、シャープな眼鏡をかけた夏目彼方の顔があった。 「な、なに?」  一体いつからいたんだ。まさかあずみを見つめていたの、見られたか。  ――あれ? でも訊かれたのは違う名前? ミノリさんて……だれだ? 「樋口先輩だよ」  彼方は先輩の一人を指差した。 「あ、ああ……」  二年生の樋口実乃里先輩は弓道部の副部長で、取手純一郎先輩とともに僕らを出迎えてくれた先輩の一人だ。     
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