壱、 嗚呼、憧れの混成弓道部

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 髪は肩につくかつかないかくらいのショート。細身で長身の、モデルのようなスタイルだ。袴姿は「やまとなでしこ」という言葉がよく似合う。道衣からすらりと伸びた白い腕は細く、弓など引けるのだろうかと勝手に訝ってしまう。ただ、だからといってか弱い乙女という形容は似合わない。――きっと樋口先輩のような女の人は、自分の後ろ姿がひとからどう見えるかもよくわかっているから、そこで妙に華やかに着飾ろうとしない。立ち居振る舞いのしなやかさで人の目を惹きつける術を知っている――って、僕の観察眼は妄想でしかないけれど……なんとなくそんな気がした。 「どうって、どういうこと」  彼の聞かんとすることはなんとなくわかったが、僕はあえて聞き返した。  すると間髪入れずに次の質問が飛んでくる。 「好きか苦手かだったら?」 「きれいな先輩だと思うよ」 「答えになってないじゃん」  まあ、そうだけど……。 「で、どのへんが?」  どこってそれは――「顔とか?」 「面食いだな」 「そんなんじゃないって」 「付き合いたいとか思う?」 「怖いもの知らずでも自意識過剰でもないし……そもそも話したことないから」 「高嶺の花?」  なんだかドッジボールの試合で一気に攻め立てられたような気分だった。樋口先輩のことは、恋愛対象というより、正直言って別の世界の人だと思っていた。 「夏目くんはどうなの?」 「うわっ、鳥肌。男に夏目くんって、久しぶりに呼ばれたよ。悪いけど、カナタって呼んで」  出会っていきなり自分を呼び捨てで呼べって……。そのコミュニケーション能力がうらやましい。 「そういえば君の名前は?」 「葛城(かつらぎ)だけど」 「下は?」 「秀(しゅう)」 「じゃあ、シュウって呼ぶよ」 「え、うん」 「話戻すけど、さっきの秀からの質問の返答――俺は実乃里さんのこと、好きだよ」     
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