拾八、 エピローグのようなプロローグ

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外の眩しさと中の薄暗さが対照的で、目が慣れるまでの間、道場から見る芝とその先の的が、一枚の写真のように映った。外に目をやると、まず最初に取手先輩や樋口先輩の顔が見えた。皆一様に強張った顔をしている。不安や心配で息を呑むというよりも、そこでともに戦っているかのような熱い気持ちが伝わってきた。 その奥に、光井、そして、あずみの顔が見えた。 こぶしを胸の前で握りしめる光井と違い、あずみは―― 笑っていた。 ――時間が止まったみたい。 今あらためて、初めて出会ったときのことを思い出した。 ――シンクロかー。 泣いているのかと思ったら、くすくすと笑いを漏らした彼女。あれはたしか、夏の終わりのことだったっけ。 ――また――、シンクロしたね。 打ちひしがれた僕を、彼女が再び立ち直らせてくれた。川中道場で見せた満面の笑み。 そういえばいつだって、彼女は僕に笑顔をくれた。それが僕の力となり、支えになった。彼女の、うそ偽りのない姿が好きだ。僕もまた、同じように臨む。弓道部のみんなにも、彼方にも、そしてもちろん、あずみにも。 目の前の的にも。自分にも。うそのない姿で。 こんなことを先に言うのもなんだけれど、試合のあとに先輩たちから、肩をたたかれつつ、口々に同じことを言われた。 「試合中に、ひとり笑って、なに考えてたんだ?」 僕はうまく答えられずに、苦笑いするしかなかった。まあ、それは少しあとの話だ。 彼方もセイタも、一本目を見事に的中させた。 「よ―――し!」 勢いのある掛け声が場内に沸く。     
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