274人が本棚に入れています
本棚に追加
外の眩しさと中の薄暗さが対照的で、目が慣れるまでの間、道場から見る芝とその先の的が、一枚の写真のように映った。外に目をやると、まず最初に取手先輩や樋口先輩の顔が見えた。皆一様に強張った顔をしている。不安や心配で息を呑むというよりも、そこでともに戦っているかのような熱い気持ちが伝わってきた。
その奥に、光井、そして、あずみの顔が見えた。
こぶしを胸の前で握りしめる光井と違い、あずみは――
笑っていた。
――時間が止まったみたい。
今あらためて、初めて出会ったときのことを思い出した。
――シンクロかー。
泣いているのかと思ったら、くすくすと笑いを漏らした彼女。あれはたしか、夏の終わりのことだったっけ。
――また――、シンクロしたね。
打ちひしがれた僕を、彼女が再び立ち直らせてくれた。川中道場で見せた満面の笑み。
そういえばいつだって、彼女は僕に笑顔をくれた。それが僕の力となり、支えになった。彼女の、うそ偽りのない姿が好きだ。僕もまた、同じように臨む。弓道部のみんなにも、彼方にも、そしてもちろん、あずみにも。
目の前の的にも。自分にも。うそのない姿で。
こんなことを先に言うのもなんだけれど、試合のあとに先輩たちから、肩をたたかれつつ、口々に同じことを言われた。
「試合中に、ひとり笑って、なに考えてたんだ?」
僕はうまく答えられずに、苦笑いするしかなかった。まあ、それは少しあとの話だ。
彼方もセイタも、一本目を見事に的中させた。
「よ―――し!」
勢いのある掛け声が場内に沸く。
最初のコメントを投稿しよう!