壱、 嗚呼、憧れの混成弓道部

2/11
272人が本棚に入れています
本棚に追加
/244ページ
「すみません、遅れました。引佐中学出身、17HRの夏目彼方です! 袴をはいて矢を射る先輩たちに憧れてここを選びました! 弓道部に入れてください!」  振り返ると、一人の男子が満面の笑みで立っていた。  先に集まっていた新入生たちが彼を見てざわつく。  あ、彼は。  どこで売っているのか不思議に思うほどのシャープでメタリックなメガネをかけているが、決してお堅いガリ勉タイプではなさそうだ。耳を覆う栗色に染めた髪が男の目から見ても格好いい。  彼の名前は知っていた。夏目彼方(なつめかなた)。  僕だけではなく、教師も生徒も、すでにこの高校の全員が彼の顔と名前を覚えたはずだ。  彼方は入学式で、新入生代表としてスピーチした。緊張も気負いも顔に出さず、飛び石を踏むようにトントントンと階段を駆け上がり、壇上に立った。ああいう場で生徒や保護者の顔を見渡せばそれなりに緊張するはずだが、もう何百回とそれを行ったことがあるかのような自然体でマイクを手にした。 「僕は犬になります」  それが彼の第一声だった。  会場全体が一斉にざわめいた。先生方が蒼白になった顔を見合わせる。  何言ってんだ。僕もあっけに取られて、彼方を食い入るように見たのを覚えている。     
/244ページ

最初のコメントを投稿しよう!