壱、 嗚呼、憧れの混成弓道部

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 先輩たちの右手には、みんなゆがけと呼ばれる皮の手袋のようなものが嵌められている。そもそも素手で引くものではないのだろう。それでも、これほど引くのが難しいとは意外だった。  目の前のあずみが、顔をしかめながら弦を引っ張っていた。 「痛いぃ……」  見ると、右手の人指し指と中指に弦が食い込んでいる。 「そんなに無理に引かなくてもいいんじゃない?」  あずみは僕の声が耳に入っていないのか、苦しそうな声を出し続け、それでもしばらくすると、諦めたように引いていた弦をもとに戻した。 「もっと簡単にできると思ったのに」  独り言かと思ったら、あずみはまたしても、「ねっ」と語尾を強めて――今度は背中を反らして僕を見上げた。彼女の顔が僕の胸元近くに接近する。まじまじと見つめるその黒目勝ちな瞳の存在感に耐えられず、急いで視線を外す。この子、テリトリー無視か?  と、今度は制服のリボンの結び目の奥に、白い布が覗く。どきりとした。  ――ブラ? いや、たぶんインナーか……。 「ちょっと、危ないよ――ドミノ倒しになったらどうするの」  照れ隠しとはいえ、我ながら何の面白みもないことを口走ったことに後悔。  あずみは慌てて、舌を出して体を立て直した。 「今日は形だけ」  そう言って彼女は、今度は弦を引かずに左腕で弓を支えたまま、右手で弦を引くまねをした。僕も同じようにそれに続く。     
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