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二人の弓が平行して、まっすぐに立つ。
あずみとの息遣いが一瞬そろった気がした。
的を見据える。弓を持つ手を体の中心から、くうーと伸ばしていく。的場の上に広がる空の青さが、じわりと的場を溶かし込み、目の前に的だけ残った。
周りの声も音も消えた。
先輩たちから見れば、手順も形もめちゃくちゃだったろうが――そのとき僕らは、たしかに空間と時間の一部を支配していた。
「はい、それじゃあ、新入生のみんな、弓を戻してねー」
取手先輩の掛け声ではっと我に返る。的から顔を戻して弓を下ろすと、右袖から、あずみがじっと僕を見ていた。先に弓を下ろして射位から離れていたようだ。彼女は自分の背丈より長い弓を両腕で抱きかかえていた。
「どんな感じだった?」
あずみが興味深げに訊いてきた。音も色も時間さえも消えた異次元から、急に現実に引き戻されて――しかも目の前に僕を見上げる女の子がいる。かわいい。って、何を考えてるんだ自分……。どうにもこうにも血の気が上って喉から声が出なかった。
「時間が止まったみたい」
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