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こんな夢のような出来事が、立て続けにあっていいんだろうか。今日はいろんなことが多すぎる。自分の人生の中では5年分くらいに相当する進展ぶりだ。
今こうして、見つめているだけだった東と会話している。しかも、嘘か社交辞令か、話しかけたかったとまで言ってくれた。
「ごめん。困らせるつもりじゃなかったんだけど」
「東くんが謝ることないよ! そのちょっと驚いただけだから。僕なんて、東くんの視界に入ってるなんて思わなかったから」
「何言ってんの? 俺、ずっと柳井のことすげえって思ってた。頭いいし、いつも図書室で勉強してるし」
「え」
図書室で勉強していることを知っていた……?
「グラウンドからいつも見えてたから、柳井が勉強してるとこ」
「ああ……」
違う、そうじゃない。
「見てたのは僕だよ。ずっと、サッカーしてる東くんを勉強しながら見てたんだ!」
「え……」
「あっ」
しまったと、思ったときには遅かった。滑るように出た言葉は、一生言うつもりのなかった言葉で、そんなことを知られたらきっと気持ち悪いやつだって思われてしまう。
せっかく二人で話せたというのに、泡沫の夢はすぐに弾けてしまった。
真人は、ごめん、と言って東に背を向けて、教室を飛び出そうとした。
「待って……!」
ぐん、と腕を掴まれ、真人は身動きが取れなくなる。このまま逃げさせてほしかった。嫌われてしまうことになっても、今日の思い出だけで生きていくことを許してほしかった。
「柳井、あのさ……」
次に続く言葉に怯える。ぎゅっと目を閉じる。
「俺たち、友達になれる? いや、なろう。友達に」
「え?」
真人が振り返ると、東は、にかっと笑顔になった。
――ああ、知ってる。この顔は嬉しいときの顔だ。
その日から、真人は東と友達になった。そして真人は、東に恋をしているのだと気づいた。
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