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当時は、眺めているだけで満足だった真人だが、高校三年になった今では、新たな楽しみが増えていた。
高校三年の始業式の日、教室に足を踏み入れたときに、真人は教室で着替えていた彼に遭遇した。いつも遠くからしか見ていなかった彼が目の前にいて、足がすくんだ。彼は、教室の扉を開けたきり、立ち止まっている真人に気付き、にこやかに微笑んだ。
「おはよう」
見つめ続けていた彼と真人は、高校最後にして、初めて同じクラスになったのだ。
彼の名は、東翔太郎。
ハキハキとして明朗快活な上に、優しく話しやすい雰囲気を持ち、部活はサッカー部に所属していて今ではキャプテンだ。夏の県大会ではサッカー部は準優勝に終わったが、東の活躍で、我が校はサッカーの強豪校に仲間入りしたといっても過言ではないらしい。
東が、学校で有名な理由はサッカー以外にもあった。彼の父親は若くして、現内閣の東翔吉厚生大臣であり、そもそも東家といえば代々政治家の家系である。ただ、東はそんな身の上を持ちながら嫌みのない男であった。爽やかな外見も持ち合わせ、誰とでも分け隔てなく学校の誰もがその存在を知っている人気者だった。 クラスメイトと必要最低限の会話しかしない真人は、そんな彼の経歴についてはまったく知らなかった。だが、クラスメイトとして彼を見ていれば、その人気者たる所以は明らかだった。いつも東をクラスメイトが囲んでいて、その輪の中心で出しゃばらずみんなの話を聞いている。常に周囲のことを考えて行動する、非の打ち所のない男だった。
今までは遠くから見つめるだけだった彼を、同じ教室で眺めることができる。それだけでも今までの真人からしたら、十分は幸せだ。
そして、さらに嬉しいことが続いた。
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