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「マジ? 見せてくれるの? さすが柳井」
「やった。ラッキー!」
「でも、人のノートを見ても勉強にはならないと思う」
「うるせえんだよ、いいからよこせよ」
一人が、真人の手からノートを煩雑に奪い、中をペラペラとめくる。
「どうする? コピーしてくるか?」
「いくつか間違えといたほうがいいよな。クソ、写す時間がいるな」
二人は、もうすでに真人のことは興味がない。もしかするとこのままノートを貸したら、戻ってこないかもしれないと頭をよぎる。ここで拒否をして騒ぎになって、波風を立たせても、と思い、真人は黙っていた。
「おい」
背後から声がして、真人と二人が振り向くとそこには意外な人物が立っていた。
「なんだよ、東」
朝練を終えて、戻ってきたのか、東は運動着姿だった。同じクラスとはいえ、こんな近い距離に東がいたことがないので、真人の心臓が跳ね上がる。
「ノート返してやれよ。そもそも、人から借りたノートじゃ意味ないだろ」
「は? 柳井が俺たちに貸してくれたんだぞ。おまえに関係なくね?」
「柳井が良くても、俺が気分悪い。だって、俺だって数学苦手なのに頑張ったんだぞ。ずるい」
東の理由があまりにもかわいらしくて、思わず真人の顔がほころぶ。
「おまえのことなんて知るかよ。いいから引っ込んでろよ」
「数学は5限目だろ? まだ間に合う。おまえら、自力でやれって」
「うるせえな!」
「返せ」
東は引かなかった。
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