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「だからおまえに関係ないって……」
「かーえーせー」
「はぁ!?」
真人は、東と二人の無理問答を黙って見ていた。面倒くさいことになるくらいならノート一冊くらいたいしたことじゃないと逃げていた自分に比べて、絶対に折れない東がすごいと思った。
あまりに長く続くようなら、もういいから、と東を止めようとも考えたが、東が自分という存在のために前面に出てくれているという事実に、真人の頭はふわふわとしていた。
――夢かな。
自分の存在は他人には見えてないのではないかと思うほど、自分の影は薄いと感じている。東だって、挨拶はしてくれても真人のことは同じ人間だと思っていないかもしれないとすら思っていた。
それが真人のために、あまり関わりたくないような類の生徒と戦ってくれている。これが夢ならば、まだ醒めないでほしい。
「あー、うるせぇな! もう返すよ!」
ついに痺れを切らしたのか、真人のノートを床に叩きつけ、二人はブツブツと文句を言いながら教室を出ていった。
突然の展開に驚きそのまま呆けていると、東は落ちたノートを取り上げ、真人に差し出した。
「はい」
「え、あ、ありがとう……」
自分のノートを両手で受け取る。いまだかつて、こんな風に自分のノートを丁重に扱ったことなんてあっただろうか。
「俺、余計なことしちゃった、かな」
「え?」
東が申し訳なさそうな顔をして、頭を掻く。
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