第一章:恋慕

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「なんで。助けてくれたんでしょ? お礼を言わないと。ありがとう」 「あ、そんなつもりじゃないから。だって、他のやつのノートならまだしも、柳井のノートはダメだよ」 「え?」  自分のノートがダメな理由がわからず、真人は首をかしげる。  それに気付き、東が慌てる。 「だっておまえのノートは俺や他のやつのノートに比べて絶対、綺麗だろうし、軽率に借りれるようなもんじゃないって」 「え? 僕のだって、普通のノートだよ。見る?」 「いやいやいや、ごめん。そういうことじゃないっていうか、そうなんだけど。ちょっとずるいってのはホント」 「ずるい?」  観念したように、東がため息をつく。 「だって柳井って誰とも話してるのを見たことないからさ。あいつら見て、ノート借りるって口実つくれば話しかけられたんだなって俺、気づかなかったから。なんか悔しくて」  真人は、東が何を言っているのか、理解できなかった。自分が、誰とも話さないのはわかるが、それじゃあまるで東が真人に話しかけたかったと言っているように聞こえる。 「ノートなら、別にいつでも貸すけど」 「そうじゃないって! おまえと話してみたかったってこと!」  そう言い切った東は、ぼんと顔を赤くさせ、ああ、と顔を手で覆った。遅れて、真人も恥ずかしくなってきて、俯いた。
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