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再会
「相変わらずだな、雄大。」
突然、聞こえてきた、低く、重量感のある声。
「うわっ。」
書棚に寄りかかり、研究書を読んでいた俺は。
うっかり、希少本を落としそうになり・・・。
慌てて、抱え込む。
こんな高い本。
弁償なんて、絶対に無理っ。
この声は・・・。
こいつがいることを、想定していなかった。
いや、頭の片隅では、分かっていたような。
俺は、声の主を、上目使いで、そっと確認する。
「和樹っ。」
やっぱりー。
気分は、すっかり、ムンク。
そこにいたのは・・・。
いくら注意しても、気にせず。
年上の俺を、呼び捨てにし続ける男、和樹だった。
「川瀬。
バイト、しないか?」
公務員試験が終わり、卒論も、あらかた、片がついていた俺は。
大学4年の9月。
そう、スカウトされた。
バイト代、というよりも。
夕食つきという、条件に惹かれ。
そして、紹介されたのが、先生の一人息子。
この、和樹だった。
奥二重で、通った鼻筋。
薄い唇は、冷たい印象も受ける。
でも。
時に子どもっぽい笑顔を見せる。
その、アンバランスさが、更に、魅力を引き立てる。
俺は、この少年と、友達のように、接していた。
そう思っていたのは、俺、だけだとしても。
突然の再会に、どうしていいか、分からない。
俺は、動揺を鎮めようと。
ゆっくりと、本を、本棚に戻す。
そして、おそるおそる、振り向いた。
近っ。
いつの間にか、和樹が、近くに、きていた。
「お前。
また、大きくなったか?。」
思わず、思ったままを口にした。
「雄大は、相変わらず、小さいな。」
「うるさいっ。」
頭を、昔のように、ぽんぽん、と、叩かれる。
ちくしょーっ。
俺は、和樹のお腹を、パンチした。
はずだった・・・。
うわっ。
よけんなっ。
触れたと同時に、和樹が、体を引いた。
そのために、俺の体が、前に倒れる。
慌てた、和樹が。
俺の体を、ぎゅっと抱きとめた。
一瞬、グリーン系の、すっきりとした香りがして。
がっちりとした、体格に、包まれた。
「あ、ありがとうっ。」
お礼を言った俺は。
和樹から、ぱっと離れた。
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