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邂逅
「ありがとう、ございました。」
見送りは。
徹さん、1人だった。
「なあ、川瀬。」
どうしたんだろう。
思いつめたような、表情で。
徹さんは、俺の目をまっすぐに見つめた。
「あの人は・・・。
知事として、やっていけそうか。」
えっ?。
何、突然っ。
「毎日さ。
すごく、疲れて帰ってきて。
それでも、心配させないようにって。
一生懸命、はしゃいでる、感じで、さ。」
弱弱しく話す姿は、庇護欲をかきたてる。
「先生は。」
俺は、言いきかせるように、話を続けた。
「県庁内でも、人気があります。
副知事も。
よく、勉強してるって、褒めてますよ。」
そう。
知事は選挙で選ばれるが、副知事は、普通の公務員。
まあ、普通といっても、各部長を経験した、超エリート。
俺たち、平社員とは訳が違う。
「問題、ありません。
俺たちも、できるだけのことは、しますし。」
おうっ。
頑張るよ。
徹さんを、安心させるよう、胸をはる。
なのに・・・。
「雄大、じゃあな。」
階段の踊り場から、茶々が入る。
「和樹っ。」
人がせっかく、格好よく、きめたのに。
あっ、それより。
「先生は?。」
酔いつぶれた、先生を運ぶのは。
俺や、徹さんには、無理。
そんなことができるのは。
体格のいい、和樹だけ、だった。
「ベットに、放り込んできた。」
まじか。
和樹は、そう言うと。
俺の隣で、スニーカーを履き出した。
夕方なのに、これから、出かけるのか?
「雄大は、親父の、お気に入りだからな。
今の学生より、優秀だった。
研究者にしてやりたかったって、さ。
今でも言うほどに。」
立ち上がった和樹は、振り返ると。
徹さんに、ゆっくりと、話を始めた。
大学卒業とは、研究員になりたいと、思っていた。
それを聞いた、先生は。
俺の夢を叶えるため、奔走してくれた。
それなのに・・・。
4年生の5月。
親父が、突然、いなくなった。
そして俺は。
急遽、就職に路線変更をした。
だから、先生には、すごく迷惑をかけたのに。
今でも、そう言って、くれるなんて。
「雄大が、秘書だって。
すごく、喜んでて、さ。」
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