映画

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和樹。 彼女、いないんだろ。」 「いらない・・・。」 声、小さっ。 よく聞こえなかった俺は、かがみ込んで、和樹に近づいた。 すると。 和樹の右手が、すっと、伸びてきて・・・。 俺の、左頬を撫でた。 はい?。 「俺は・・・。 雄大が、いればいい。」 真剣な顔をして。 ざらざらとした手のひらが。 ゆっくりと俺の頬を、なでる。 はて。 意味が、まったく分からない。 こんな風に、撫で撫でされる、シチューエション。 おかしくないか?。 「なーんてね。」 おちゃらけたように、そう言うと。 「痛っ。」 俺の左頬を、思いっきり、つまんだ。 「なにゅしてるんだ・・・。」 しゃべれへん。 「ぶちゃいく、だなあ。」 そう言うと、曇りない笑顔で、笑った。 「まったく。」 和樹から、頬を取り返した俺は。 つままれたところを、手で抑える。 思いっきり、つまみやがって。 「雄大がいれば、いいっていうのは、本当。 一緒にいて、楽しいし。 違うか?。」 「うーん。 まあ、そう、だな。」 妙に納得。 まあ、楽しいからいいか。 俺は、和樹の感触が残る頬を、しばらく、撫でていた。 和樹と出かける日は、夕方には、解散する。 和樹は、夕飯も一緒に、と言うけれど・・・。 学生の間は、徹さんの作ってくれる、夕飯を食べるよう、説得した。 大学生になって、一人暮らしを始めた俺は。 もっと、実家に帰るべきだった、と後悔しているから。 その代わり。 待ち合わせは、午前中。 和樹は、譲らなかった。 ちょっと、早過ぎないか。 別れるまでは、少し時間がある。 俺は、和樹の隣りに、腰掛けた。 今日の上演回数は、1回。 一緒に映画を観ていた人たちは、ほとんど帰り。 この裏道を、通る人は、いない。 「なあ、雄大。 あいつのこと、まだ引きずってるか。」 「あいつ?。」 「佳代。」 人の元カノのことを、あいつって。 そういえば・・・。 最初のうちは、思い出すことも、あったけど。 すっかり、忘れてる、な。 「ない、な。 和樹が、いろいろ連れ出してくれた、おかげかな。」 俺は、正直に認めた。 「そうか。」 そう言うと、はにかんだ笑顔を浮かべる。
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