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発露
「空いているな。」
和樹と連れ立って、母校の構内を歩く。
学食が、週末に一般公開されている。
そんな話を聞いた俺は。
昼飯は学食に行く、と決めていた。
毎日のように、通っている和樹は、不満そうだったが。
それが、今日の、メインイベントだった。
なのに、野村と会ってから、和樹は言葉少なげで。
「おいっ。」
突然、俺の腕をつかんだ和樹が、横道に歩きだす。
そして、連れてこられたのは。
利用者のいない、自転車置き場だった。
「何だよ。」
「同期会、行くのか。」
また、それか。
腕を離した和樹は、低い声でそう聞いた。
「だから、言ってるだろ。
同期の付き合いは、さ。
大事なんだよ。」
ったく。
「行くな。」
「何でだよ。」
こいつ、訳、わかんねえ。
見上げながら、俺は、和樹を睨みつける。
「・・・っ。」
そんな俺に、小さい声で、何かをつぶやくと、
「おいっ、何して・・・。」
突然、俺の全身をつつむように、強い力で抱きしめた。
俺は、頭が真っ白になり、なされるが、ままで。
グリーン系の、すっきりと、香りがして。
「行くな。」
一層、力が込められ。
低く、告げられた言葉で、俺は我に返る。
「和樹、離せっ。」
「行くな。
お前は、俺のものだ。」
えっ。
「何、言ってるんだ。」
かろうじて、自由になる指先で、和樹の体を叩く。
「誰にも、渡さない。」
少しだけ、体が離れると・・・。
和樹の顔が、近づいてくる。
まじかっ。
その意図を理解した俺は、うつむくことで、和樹を阻止する。
「ちっ。」
力が緩くなったと思ったら、左腕をつかまれて。
今度は、右手が俺の顎をつかむ。
「雄大。」
かすれた声とともに、吐息が近づいてくる。
俺は、とにかく必死で。
自由になった左手で、和樹の体を払い。
刺激しないよう、じりじりと、後ずさった.
「何っ・・・。」
顔は引き攣り、声も震えているのか、分かる。
そんな俺を見た、和樹は。
自分のこぶしを、ぎゅっと握った。
「雄大、お前の事が好きだ。」
そして、低く、ゆっくりと。
俺の目を見つめて、そう言った。
「ふざけんな。」
「何で、分かってくれない。」
「何だよっ。
突然、そんなこと言われて、分かるかっ。」
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