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受信
ブーブー。
鞄の中で、俺のスマホが音をたてる。
文面は、分かっている。
「会いたい。」
あの日。
和樹と別れた日から、毎日届く、メール。
俺は、返信しない。
どうしたらいいのか、分からない。
文面は、どんどん短くなり、今では、その4文字だけ。
あの、武骨な指で語られる文字に。
俺の胸が、締めつけられる。
県庁に、会いにくることも、できる。
でも、それをしないのは。
先生との親密な付き合いを知られたくない。
そういう俺を、気付かっているから。
時間があくことで、少し冷静になった俺は。
そこまで、考えられるように、なっていた。
でも。
好き、なのか。
嫌い、なのか。
俺は、自分の気持ちが、分からない。
翌日。
先生は何も言わなかった。
言える訳も、ない。
俺は、秘書業務に没頭した。
同期会は、散々だった。
俺に、やたらと話かける、女たち。
嬉しそうに、俺の隣に座る、真理の。
甘い匂い。
時折あたる、さらさらとした、長い髪の感触。
和樹は、ああ見えて、俺との距離を計っていた。
ミントのような、すっきりとした、匂いだった。
あの短髪が、俺にあたることは、なかった。
そんな些細なことでさえ、和樹と比べていることに。
俺はまだ、気がついていなかった。
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