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密会
金曜の午後にしては、道が空いている。
「お疲れさまでした。」
助手席から、降りた俺は。
後部座席から、降りた先生に、頭を下げた。
普通、秘書が、扉を開けるまで。
車の中で、待ってるものじゃ、ないのか。
まったく、この人は。
「駅で、降りたら。
見つからないように、戻って来い。」
はい?。
俺の耳元で、そう囁くと。
先生は、運転席に会釈をして。
門扉を操作して、中に入って行った。
知事が、朝から県庁に登庁するときは。
運転手が、自宅に迎えにいく。
運転手は、途中で、県庁に電話をいれる。
俺たちは、その電話で、到着時間を計る。
そして、当番の1名が、正面玄関で待機する。
無駄な旅費や、時間外手当は、ださんぞ、ということだろう。
出先に直行、直帰の時もある。
その時は、知事の自宅近くの駅で、車に乗り込む。
帰りも、そこまで、送ってくれる。
うん、この辺りは、秘書っぽい。
「先生。
こういうことは、先に言ってください。」
指示どおり、戻ってきた俺は。
玄関で、先生の出迎えをうける。
「いやー。
何か秘書を、こっそり呼び戻すってさ。」
密会みたいで、いいじゃないか。」
・・・。
「まあ、手を洗ってから、食堂へ来い。」
あきれる俺にそう告げると、先生は、その場を逃げ出した。
洗面台に整然と置かれた、3本の歯ブラシ。
先生と、徹さんと、・・・・。
4月に来たときは、気にならなかったこと。
それは。
俺と、和樹の関係が、変わったことを、物語っていた。
「まあ、座れ。」
俺は、言われるまま、先生の向かい、コップの前に腰掛ける。
「あの、徹さんは?。」
「部屋に、行ってもらった。
聞きたいのは、それか。」
この人は、ごまかせない。
「和樹は。」
俺は。
本当に聞きたかったことを、口にした。
「家庭教師のバイト。
女子高生だぞ、羨ましいよな。」
「えっ。
むさい、男子高生だって。」
確かに、そう聞いた。
「お前に、気をつかったんだろ。」
「それは、どういう。」
思わず、聞きかえす。
「やっぱりな。」
先生はそう言うと、大きく、息を吐いた。
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