初登庁

1/1
前へ
/46ページ
次へ

初登庁

「知事が、お見えになりました。」 東海林室長が、そう言いながら、応接室に現れた。 秘書室5年の、超ベテラン。 頼りになる、姐さん。 そんな人だ。 留守番は、俺たち秘書3人。 立ち上がったまま、頭を深くさげる。 「おはよう。」 力があり、よく通る声が、応接室内に響く。 磨かれた靴が。 俺の見つめる床面をゆっくりと、進んでいく。 先生が執務室に入るまで、ずっと。 俺は、頭を上げることが、できなかった。 「いいよなー。。 恩師が知事になったから、秘書だってよ。」 先週金曜日。 秘書室、歓送迎会が開かれた。 通常の部署は、歓送迎会も、人事異動に合わせ、7月。 例年、歓送迎会の時期は。 県庁周りの店は、争奪戦。 広い会場がとれる店は、かなり少ないらしい。 俺はまだ、幹事の経験は、ないけど。 なのに、 今回は、1番人気の店が、難なく予約できたらしい。 後から、知ったのだけど。 知事室の異動は、どんな年でも、4月に異動がある。 知事選なんて、関係なし。 だから・・・。 歓送迎会も、例年、4月に開かれる。 俺と、入れ違いで、1年で、転出した人。 それが、あの発言をした、男だった。 聞こえるように、言われた内容は。 嫌味としか、言いようがない。 「気にしなくて、いいから。」 コポコポ。 俺の隣に座った、東海林室長は。 そう言いながら、ビールを注いでくれた。 あざっす。 1年で異動するのは、よっぽどのこと。 転出を喜んでいた、秘書室のみんなは、俺の味方だった。 でも。 秘書室勤務という、出世コースに乗ったことで。 妬みの対象、となったことを、思い知った。 それまでは、知り合いの秘書だしー。 そう、軽く、考えていた。 先生と、これから、どう付き合っていけばいいのか。 俺は、分からなくなっていた。
/46ページ

最初のコメントを投稿しよう!

71人が本棚に入れています
本棚に追加