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発信
「家にいる。」
住所とともに。
和樹に、メールを送る。
会いたいなんて、言えない。
これが、俺の精一杯。
検索すれば。
俺の家なんて。
すぐに、分かるだろう。
バイト中なのか。
愛想をつかされたのか。
俺は、祈るよう気持ちで。
返信のない、スマホの黒い画面を見続けた。
ピンポーン。
部屋に、呼び出し音が響く。
急いで、立ち上がった、俺は。
もつれるような、足取りで、モニターに駆け寄る。
映ったのは・・・。
「俺。」
和樹だった。
「会いたかった。」
ずっと、走ってきたのか。
息切れをし、髪を乱した、男は。
靴を履いたまま、そう言うと。
俺を、優しく包み込んだ。
和樹の匂い、だ。
グリーン系の、すっきりとした香りを、ほのかに感じ。
たくましい体が、俺を包む。
俺は、ゆっくりと、和樹の背中に両腕を回す。
これが俺の答え。
「俺も。」
小さい、小さい声で、そう呟いた。
一瞬、和樹の体が揺らぎ。
和樹と目があった俺は。
そっと目を閉じた。
何もかも、もっていかれそうだ。
初めての経験に。
俺は、息の仕方が分からない。
唇がはなれると同時に。
俺は床にへたりこんだ。
目の前に、座り込んだ和樹は。
俺の目を、じっと、覗きこんだ。
そして。
「嫌、だったか。」
素のままの。
自信なさげな、弱弱しい声。
そう聞いた。
「初めてで、びっくり、しただけだ。
息が、できなかったから・・・。」
恥ずかしくなりながらも。
素直に、そう答える、俺を見て。
大好きな。
少年のような。
くもりのない笑顔を、俺に向けたんだ。
和樹は。
俺の、シャツのボタンを、はずすと。
袖から、シャツを抜き取り。
そのまま、鎖骨についた。
顎にチクチクとした感覚があり。
相手が、男、であることを、実感する。
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