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マフラー屋さんになりたいと夢を語っていた姉さんは不器用ながら必死に編んでくれたけど、でも、ぼくは姉さんを悲しませた。
ぼくはあの頃、マフラーじゃなくて毛糸の帽子が欲しかった。ただそれだけの理由で、がんばって作ってくれたマフラーを"いらない"と放り投げてしまい、姉さんはぼくの頭を叩いて泣きながら外に飛び出していき、そしてトラックにはねられた。
それが姉さんからの最初で最後の誕生日プレゼントになった。
「ね、キミは弟っている?」
「へ? いや、ぼく一応は弟なんです。姉が……その……」
「一応? なに? お姉さんとケンカでもしたの?」
できればいくらでもケンカしたいくらいだけど、この人には暗い話題はやめておこう。
「えぇまぁ……ちょっと」
「そっか。なんかゴメンね……」
え? もしかして、なにかマズイこと言っちゃったのかな?
「ね! 次はペンギンを見に行かない?」
「い、いいですよ。行きますよ」
氷山を模した檻の中には白と黒のペンギンがわんさか詰まっていた。
短い足で一生懸命歩く姿は愛らしく、実は人が入ってるのではないかと思ってしまった。北極で暮らすペンギンからしたら日本の秋はまだまだ暑いんだろうな。
「ちなみに、ペンギンは南極にしかいないからね」
「えっ!? そうなんですか!? てっきりシロクマと……「ちなみにシロクマは北極にしかいませーん」
「なんてこった……ずっとペンギンとシロクマのコンビは抜群だと思ってたのに…」
「え、どうしてそこで悔しがるの?」
姉さんにはよく絵本を読んでもらったなぁ。その絵本ではペンギンとシロクマが仲良くしていて、どの絵本に登場しても必ずマフラーを巻いていたっけ。よく考えたらそれって意味ないよね……。
冬の日はわざと窓を開けてた。マフラーを巻いて冷たい風を浴びると、ペンギンとシロクマの気分を体感しながら絵本を読めたから。
ぼくはよくペンギンみたいだって姉さんに言われてたけど、このペタペタ歩く姿を見ているとなんとなく納得できる気がする。この人もきっとそう思ってるはずだ……たぶん。
「あ、あの…」
「ん? いやぁ、ペンギンは家で飼うのは難しいと思うよ?」
「え、いやそうじゃないんです。あの、ぼくってペンギンに似てますかね?」
「あっ、うーん……そう言われればそうだね……」
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