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「君は、中々強情だね」
背中に柔らかい感触がのしかかる。
一瞬息が止まった。
「……待て、俺は」
言い掛けて、ふと色々な記憶が甦る。
優希の傍にいながら、何もしてこなかったこと。
優希がおかしくなってしまったことに気付きながら、見て見ぬふりをしてきたこと。
優希との思い出に縋って生きていたというのに、いざ当人を前にしてこの扱いだ。
それでいいのか。
「…………何か、悩んでるなら、話、聞くけど」
「んー……多分、無理だから、そっちはいいや」
含みのある言い方だ。
体を密着させているというのに、まるで近付くなと突き放されたかのように感じる。
それに……。
優希に強く引かれ、バランスを崩し倒れ込む。
両手の間には、優希の顔がある。
昂っていく劣情が、俺の心を支配する。
――優希には、関係を持っている人がいる。
――誘ったのは、向こうだ。
体の細胞全てが優希に触れることを肯定しようとしている。
これから先、俺が一瞬でも期待した「それ」を、優希は気分転換でもするかのような軽々しさで始めようとする。
優希の手が俺の手から腕、肩を這うように上っていく。
後頭部に両手が回されるとそっと引き寄せられ、俺達は重なった。
優希と俺の境目が無くなったように感じる。
全てのことがどうでもよくなる。
自身の熱と、それよりも少しだけ熱い優希の熱が混ざり合う。
どこまでも熱くなっていく。
どこまでも、どこまでも。
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