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不意に、けたたましい音楽が静かな室内に鳴り響く。
優希の携帯からだ。
嬌声を漏らしていた優希がその音を聞くなり止まり、俺から離れていく。
それから携帯の画面を見て大きな溜息を吐いた。
俺はぼやけた意識のままそれを見ていた。
徐々に冷静さを取り戻していく。
いつの間に服を脱いだのだろう。
優希から離れると優希は携帯を耳に当て少しだけ寂しそうに微笑んだ。
「まだ探してるの?」
誰かと電話しているようだ。
なんの話だかわからないが男の声が受話口から漏れていた。
ここまで聞こえるくらいだから相当叫んでいるのだろう。
「あんまり遅いから、これから本番だよ」
優希がそう言うと、男は更に激しい口調で何かを捲し立てる。
優希はその言葉を聞こうともせず通話を切った。
「……ごめん、君に迷惑かけちゃうかも」
嘘だ。
これっぽっちも申し訳ないと言う口ぶりじゃない。
「それより君は隠れるか逃げた方がいいかも。迷惑はかけちゃうけど、巻き込みたくはないからさ」
まるで話にならない。
事情も聞けないわけか俺は。
何を考えてるんだこの女は。
優希にもう一度問おうとした、その時。
ドンドンと激しく玄関の戸が叩かれる。
次いで優希を呼ぶ声。
ホラー映画で霊に追われているかのような気分だ。
或いは任侠映画か。
優希が俺を掴み脱いだ衣服ごと押入れに押し込もうとする。
まるで人のものとは思えない力だった。
成す統べなく俺は押入れに収納された。
「ごめんなさい」
その声と、優希の悲し気な顔を最後に、俺は暗闇に囚われる。
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