Trust

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「着いたよ」  優希がそう言って俺を解放する。 よろめきながら優希が指し示す方を見て、戦慄した。 夥しい量の黒血が、天井、壁、床に飛び散り固まっていた。 部屋の中心にある赤黒く染まった長机とそこから臭う吐き気を誘う異常なまでの獣臭さは、そこで行われた殺戮の光景を想像させる。 机の中央にはそれらの残骸だと思われる乾いた血肉と、砕けた骨が散乱していた。 「ここでね、皆を天国に連れていくの」 無機質な声で優希は確かにそう言った。 「……え、何が、どういうこと」 再び襲う吐き気を堪えながら意味を問う。 少しだけ頬を緩ませて優希は言った。 「私がここに皆を連れてきて、天国に連れていく。連れていった子は痛くて、苦しみながら死んでいくから、次に生まれ変わる時、誰かの痛みがわかるでしょう?」 優希は平然とここで何をしているか説明した。 犬猫をはじめ、時には山にいる狐を捕まえてはここへ連れてきて「天国へ連れていく」そうだ。 優希は少しも悪びれることなく全てを俺に打ち明けてきた。 「なんで、俺に……あ」 思い浮かんだ言葉が、漏れ出てしまっていた。 それと同時に「自分もその対象とされた」のかと思い戦慄する。 だが俺の思惑は運良く外れ、優希は俺の右手を両手で包みながら呟くように言った。 「君には、知っていて欲しいって思ったんだ。……ごめんね」 その言葉の真意を俺は問わなかった。 確かに優希は異常者だった。 だがその表情や言葉尻から、自分が何をしているのか理解しているようだった。 優希がどうしてそうなったのか傍らで見ていたくせに、救いの手を伸ばしすらしなかった俺に優希を責めることはできなかった。
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