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約束の日。
数日の努力あってか陽が傾く頃には仕事に一段落付いていた。
「とりあえずこっちは終わったよ。どこにいる?」
帰り支度を済ませ、メールを送る。
返答があるまで近くの喫茶店で待機することにして歩き出す。
喫茶店に入ろうとしたところで着信が入った。
優希からだ。
「もしもし」
少しの間。
「……今、君の後ろにいるよ」
振り返ろうとしたところで頬に生暖かい突起が当たり、振り返るのを阻まれる。
続いて大きな笑い声。
こんな古典的な芸に引っ掛かるとは、大分気が抜けていたらしい。
「なんでここにいる、職場は教えてなかったろ」
「いやだな偶然だよ、こっちには今着いたとこ。電話しようと思ったら後姿を見かけたから、さ」
どうにも歯切れが悪い気がするが、本人が取り繕おうとしていることを掘り下げる必要もないだろう。
携帯をポケットにしまい、改めて優希に向き合う。
「……その、随分変わったな」
優希の姿を上から下までを吟味するように見る。
肩下まで伸ばした髪は艶やかな金色で緩いウェーブを描いており、傷だらけだった筈の腕や足は、極め細やかな淡い白色。
黄色が基調のドレスの様なワンピースは、肩口や太股まで露出されていた。
これではすれ違っても気が付けないだろう。
「逆に君は変わらなさ過ぎ。あ、いや……ちょっと老けた?」
ニヤニヤと口の端を上げて優希は俺をそう評価した。
まぁ、否定はしない。
「もう大人なんだしお酒を飲もう」と優希が言ったので居酒屋へと向かう。
仕事以外で酒を飲んだのは初めてだった。
俺が呟くと「私もだ」と同調する。
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