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終電には無事乗れた。
電車を降り外灯も疎らな住宅街を歩いていくと、
絵に描いたようなボロアポートに遭遇する。
ここが今の俺の住処だ。
今となっては寝る為に帰るだけの六畳一間。
階段を上がり二○一号室にボロボロの鍵を挿し込む。
「わっ!」
突然の衝撃で体が反射的に仰け反る。
何が起きたのかわからなかったが直ぐに誰の仕業か特定した。
「……なにやってんだよ優希」
「いやぁ、やっぱり寂しいから相手してほしいなぁって」
頬を人差し指で掻く仕種をしながら優希は悪びれずそう言う。
少し気が抜けていたのかもしれない。
「……言っとくけど、狭いし何もないからな」
「大丈夫、買い出しは済ませてきた!」
大きめの肩掛け鞄からコンビニ袋を覗かせる。
無駄に準備がいい。
一つ大きなため息を吐いてから家に入る。
お邪魔しますと優希が続く。
「うわー狭い! 何もない!」
優希は部屋に入るなり持っていた荷物を投げ出し、
部屋の中央に敷きっぱなしの布団に寝転がる。
食卓代わりの小さなサイドテーブルを広げながら人の布団に寝転がるなと注意した。
「万年床ってヤツ? 不衛生だー」
「……だったらそれ、さっさと片付けてくれ」
少しだけ強い口調になってしまう。
正直、これ以上優希に振り回されたくなかった。
ここまで露骨にされると、俺だってそろそろ察しがつく。
面倒くさいことに巻き込まれる前に……。
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