父と母

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夏になり、父の新盆を迎えることになった。 お寺のお坊さんにお経を読んでもらい、その後お坊さんと親戚で食事をした。 この日、母は体調が悪いようで、食べ物が喉を通らなかったようだ。 夜、夕食を食べようとすると、やはり母は食道に何か詰まっているようで、食べ物が入っていかないような状態だった。 そのうち、母が胸を押さえて苦しみだしたため、僕は慌てて救急車を呼び出した。 市立病院に搬送されて、緊急処置が行われた。 僕は、手術室前の待合所で、これまで感じたことのない不安に襲われていた。 僕は、心の中で手を合わせながら、 (おやじさん、おふくろさんを一緒に連れて行かないで!) と、新盆で帰ってきているであろう父の魂にお願いしていた。 僕が手術室前の待合所でぼーっとしていると、不意に声をかけられた。 「ひろし、家族を大切にしてね!  元気でね!」 母の声だった。 僕は疲れていて、いつの間にかうたた寝をしてしまったようで、この母の声で目を覚ましたけれど母の姿はなかった。 すると手術室から医者が出てきて話をしてくれた。 「いろいろ手をつくしたのですが、残念ながら今息を引き取りました。  お母様は食道癌で、肺にも転移していて手が施せない状況でした。」 「そうですか…  ありがとうございました。」 僕は、お礼を言って手術室前で待っていると、母の遺体が運び出されて遺体安置所に運ばれた。 早速、葬儀屋さんを呼び出して、母の遺体を実家まで運んでもらった。
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