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②カーナビ
剣上の車の助手席に座る度に、友一は不思議に思うことがある。
彼の車には最新式のカーナビがつけてあるのだが、友一が知る限り、剣上がそれを使っているのを見たことがないのだ。それどころか電源さえ入っていない。
故障しているのかと思ったこともあったが、まだ新しいもののようだし、いつまでも故障したまま放っておかないだろう。
剣上とはもう何度もドライブに行っている。
道に迷ってしまったことも何回かあったが、そんなときでも彼はカーナビを使おうとはしなかった。
友一も剣上と二人なら道に迷っても怖くないし、逆にそれが楽しかったりもしたので、特に不満にも思ってはいない。
それでも不思議なことには違いない。
いつか理由を聞こうと思っているのだが、剣上と二人でドライブしているときは、いろいろなおしゃべりに夢中で、つい聞くのを忘れてしまうのだ。
それは、金曜日の昼休みのことだった。
友一が親友の良太と一緒に学食でのお昼ご飯を済ませ、教室へ戻るため渡り廊下を歩いているときだった。
「おい、友一。あれ、剣上じゃね?」
良太が不意にそう言った。
刹那、友一の胸がドキと高鳴る。
担任である剣上征一と生徒の友一が恋人関係にあるということは、勿論誰も知らない。親友の良太でさえ。
「え? 剣上先生? そりゃいてもおかしくないでしょ。ここは学校なんだから」
友一はなにげない声と表情を装って、そう答えた。
「いやいや。車の助手席に女、乗せてんだよ。それも超美人。うわお。学校一のイケメン教師が昼休みに自分の車の助手席に美女……これって、ニュースじゃねーか?」
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