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-Ⅰ-
昼間のピークを過ぎた頃、小太りの男が一人でカフェを訪れた。客も疎らなカウンター席に着くと、慣れた様子でコーヒーを一杯注文した。アーヌラーリウスは別段、その男を気に掛ける様子もなくコーヒーを淹れて男に出した。
男はシュガーポットを引き寄せ、小匙に山盛りの砂糖を二杯も入れて、一気に飲み干した。二杯目を注文すると、懐からハンカチを出して、額に浮いた汗の玉を頻りに拭いた。外は未だ春の陽気が心地よく、汗をしとどに流すにはまだ早いような気もする。
「ふう……。何もしない分には暖かくていいんだけどなあ」
二杯目を運んできたアーヌラーリウスに、男はそう溢す。
「ご苦労様だな、インデックス。仕入れは順調かい?」
アーヌラーリウスの問い掛けに、インデックスはふくよかな頬をにこりと緩めた。二杯目のコーヒーにも山盛りの砂糖を注ぎ込み、スプーンでかちゃかちゃと掻き混ぜた。
「俺を誰だと思ってるんだ」
彼の浮かべた笑みに、不敵な影が差した。掻き混ぜていたスプーンを舐めて、冷え切った音を立ててソーサーに置いた。
その音に引き寄せられるように、他の三人のスタッフもアーヌラーリウス達の周りにそれとなく現れた。
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