-Ⅰ-

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 女は憮然として腕を組んだ。ワインレッドのドレスに身を包んだ彼女は、隣の夫にグラスを持たせると、アーヌラーリウスからモヒートを受け取った。 「あら? あなたは飲まないの?」  もう一つのモヒートをインデックスに差し出しながら、彼女は不思議そうに語尾を上げた。インデックスはモヒートを受け取って、夫の方から空いたグラスを受け取るように、アーヌラーリウスに目配せした。  彼は夫からグラスを受け取って、若い男の方へ訊ねた。 「何か、あてをご用意しましょうか?」 「あ、ああ。頼む」  赤毛の男は、だいぶ酔いが回り始めたらしい夫人に戸惑いながらも、アーヌラーリウスの方へ頷いた。 「メニューはあるかな」 「少々お待ちください」  アーヌラーリウスは彼らが囲んでいたテーブルの上を探り始めた。テーブルの上は飲み散らかされていて、ぱっと見でメニューを探り当てることはできなかった。ポテチやチキンの衣が散らばり、グラスが所狭しと並び、その縁に薄明りを乗せている。  そのグラスの下に、メニューがあった。小さい紙片である。見つかりにくい、と客は思うだろう。だが、アーヌラーリウスはすぐに見つけていた。それをポケットに忍ばせ、架空の捜索を続ける。 「あの人、いくつも常連で通ってる店を持ってるから……。今日行ってる店も、そのうちの一つよ」 「すごいな……。よほどの酒好きと見た」     
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