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女は憮然として腕を組んだ。ワインレッドのドレスに身を包んだ彼女は、隣の夫にグラスを持たせると、アーヌラーリウスからモヒートを受け取った。
「あら? あなたは飲まないの?」
もう一つのモヒートをインデックスに差し出しながら、彼女は不思議そうに語尾を上げた。インデックスはモヒートを受け取って、夫の方から空いたグラスを受け取るように、アーヌラーリウスに目配せした。
彼は夫からグラスを受け取って、若い男の方へ訊ねた。
「何か、あてをご用意しましょうか?」
「あ、ああ。頼む」
赤毛の男は、だいぶ酔いが回り始めたらしい夫人に戸惑いながらも、アーヌラーリウスの方へ頷いた。
「メニューはあるかな」
「少々お待ちください」
アーヌラーリウスは彼らが囲んでいたテーブルの上を探り始めた。テーブルの上は飲み散らかされていて、ぱっと見でメニューを探り当てることはできなかった。ポテチやチキンの衣が散らばり、グラスが所狭しと並び、その縁に薄明りを乗せている。
そのグラスの下に、メニューがあった。小さい紙片である。見つかりにくい、と客は思うだろう。だが、アーヌラーリウスはすぐに見つけていた。それをポケットに忍ばせ、架空の捜索を続ける。
「あの人、いくつも常連で通ってる店を持ってるから……。今日行ってる店も、そのうちの一つよ」
「すごいな……。よほどの酒好きと見た」
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