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 時計は午前十時を示していた。 「大寝坊だな」  呆れた声が足元から聞こえた。アーヌラーリウスは布団を押し退け、起き上がる。衣擦れの音に混じって、何者かの靴が床を叩く音が聞こえた。目の前には、黒いパンツに、白いシャツ、蝶ネクタイに黒ベストといった格好の男が一人立っていた。 「……メディウス」  アーヌラーリウスがそう呼ぶと、男は振り返り、銀縁眼鏡の向こうから彼を見た。呆れた笑みを口元に浮かべたまま、メディウスと呼ばれた男は手に持ったものをアーヌラーリウスに投げ渡した。 「着替えろ。ポレックスがご立腹だ」 「そりゃあ、まずい」  苦笑いを返すと、彼は別段急ぐ様子もなく、渡された衣服に袖を通した。その間に、メディウスは階下へ行ってしまった。  メディウスと全く同じ衣服に着替えると、ベッドの脇に設えてある棚の上からソムリエナイフを取り、メディウスの後を追った。  階下のカフェに降りると、ポレックスはすでに厨房で素早く立ち回り、次々に料理をホールへ送り出していた。すでに朝食の時間は過ぎているが、暇を持て余した老人達が午前中の心地よい陽気に身を温めながら、コーヒーを啜っていた。     
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