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インデックスの言葉を聞いて、夫は声を立てて笑った。夫人の尻に敷かれているとは思えない、その豪快な笑いに、一瞬店内が静まり返り、視線が彼らに注がれる。
頬を赤らめて、夫は一つ咳払いをすると、
「そんな大そうな店じゃあない」
緩んだ表情で言った。
「まあ、雰囲気は落ち着いているよ。どこも個人でやっているところでね。扱っている酒に偏りがあるんだ。……ジンだけを扱っていたりね」
インデックスは大そう感心したように頷いた。
夫が言うには、ダニエル・スウィーニーは無類の酒好き、ということに加え、相当の凝り性らしく、自分の口に合う酒を探し回っていた時期があったらしい。今はその凝り性もだいぶ落ち着き、その時期に見つけた店に日替わりで足を運んでいるそうだ。
インデックスは手の平を擦り合わせながら、にこやかに言った。
「ぜひとも、その店に行ってみたいのですが、どこにあるのでしょうねえ?」
「あ、ちょっと待ってくれよ? ……あった」
夫はジャケットの内ポケットから黒光りする革財布を取り出した。
夫人は隣で残りのモヒートを飲み干して、アーヌラーリウスにお代わりを頼んだ。アーヌラーリウスがインデックスに目を向けると、彼は小さく頷いた。それを合図に、アーヌラーリウスは赤毛の男にメニューを渡して、カウンターへ引っ込んだ。
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