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アーヌラーリウスがインデックスの元に戻るころには、さっきの夫婦は別のテーブルへと移動していた。インデックスは何やら小声で、赤毛の男と話していた。アーヌラーリウスは頼まれた品を、綺麗に片づけられたテーブルに置き、赤毛の男に一礼して下がった。
橙色の照明が、まるで夢現を彷徨っているかのような空間を演出していた。毎夜ここに集うのは、ほとんどがインデックスによって誘われた人々だ。誰もが秘め事を共有したくて、ここに集まる。
ある者は対立候補を蹴落とすため。ある者は他社よりも早く不祥事を暴くため。ある者は恋敵を陥れるため。
目的は様々なれど、互いに利害の一致を見た者同士は握手を交わし、互いの野望の達成を祈り合う。その狭間にアーヌラーリウス達がいて、彼らに必要な情報をチップ代わりに頂戴する。
アーヌラーリウスがカウンターに戻って、洗い終わったグラスを磨いていると、乱暴に扉が開いた。その騒然とした登場の仕方に、店内の一同がその派手な女に目を奪われたが、彼女が周囲を一睨みすると、誰もが彼女から視線を逸らした。
淡い青のドレスに身を包んだ彼女は、カウンター席にどっかりと腰掛けると、
「ウォッカを頂戴。ストレートで」
注文を済ますや否や、少し乱れた茶色い髪を掻き上げて、女は憂いたっぷりの溜息を吐いた。
そこへインデックスがすかさずやってきて、憂いに翳る彼女の横顔に声を掛けていた。
「やあ、ハンナ。今日はやけにご機嫌斜めじゃないか」
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