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 ロンドンと言えば、言わずと知れた街である。そこにあったはずの、コンクリートや石造りの建造物すら残っていなかった。一週間前、英国は突如として世界地図から姿を消した。海を挟んだ国の人々は、英国との通信が途絶える前日の夜に、海の向こうで何かが煌々と輝くのを見たそうだ。  何人もの目撃者のインタビューが、繰り返し放送されていた。物々しい雰囲気が、アーヌラーリウスの暮らすこの国をも覆った。カフェの中も、不安と怯えが入り混じった空気に満ちていた。原因の解明が国連によって進められているが、未だ明らかになっていない。 「怖いねえ」  カフェで食事をしていた老人の一人が呟く。 「テロかねえ……。大昔を思い出すよ」  その向かいに座る老人も溜息を吐く。彼らは、大規模なテロを目撃したのだろうか。アーヌラーリウスが二人を眺めていると、アナウンサーは別のニュースを読み上げたらしかった。 「愛人の存在は本当なのでしょうか。昨日も予算会議では、野党が大統領を追及しました」  テレビは焦土の映像から、広々とした議事堂に切り替わった。議事堂の真ん中にある演壇に立つのは、有名な野党議員だ。彼は大統領の不祥事について、細かく説明し、次々に質問を捲し立てていた。彼と替わって演壇に立ったのは、大統領であるアラン・サクソフォンだ。  彼は険しい表情でぶつけられた質問に対して答えていく。その間にも、口汚い野次が飛び交っていた。  静粛に。     
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