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ポレックスは短く返事をすると、厨房の方へと消えていった。
それを見送ったアーヌラーリウスの背後で、くすりと誰かが笑った。振り返ると、その客が華奢な肩を震わせて笑っていた。背中の中ほどまであるであろう、煌びやかな金髪をポニーテールにまとめた彼女は、アーヌラーリウスと目が合うと、肩を竦めた。
彼もそれに合わせて、苦笑いを返す。無理な作り笑いを貌に張りつけているせいで、頬が攣りそうになる。女はグレーのパーカーを脱ぎ、カウンター席の背もたれに掛けた。
「あのオーナーは堅物なの? それとも、自分の抱く政治的信条に酔狂してるとか?」
「……そのどっちもだ。堅物なのは、もはや病気だね」
「そんなこと言うと、明日には路上で物乞いする羽目になるんじゃないの?」
黒のTシャツに、ジーンズという地味な見た目とは裏腹に、彼女は華やかな笑顔をアーヌラーリウスに向けた。
彼がその笑顔に何か言い掛けた時、騒がしさが一段落した議事堂に、新たな質疑者が登壇した。
「この予算には、もちろん我々議員の人件費も含まれるわけでありますが、国民の血税が大統領の愛人の懐に注がれていることを皆さんはご存知かっ!」
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