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登壇した議員は語尾を強めて、議事堂をぐるりと見回した。再び野党の野次が飛び交った。その議員はいくつかの質問を言い残して壇上を降りた。登壇した大統領は歯切れ悪く、質問に答えるが、それもまた、野次によって掻き消される。
「薄汚いハゲネズミっ」
目の前にいた女が、鋭い口調でそう口走った。
アーヌラーリウスの視線に気づくと、女は笑みを繕って、異様に白い右手をひらりと振った。
「気にしないで。独り言よ。公共の電波を使って、卑猥な想像を掻き立てるんだもの。いい気はしないわ」
「……」
アーヌラーリウスは黙ったまま頷いた。背後にある冷蔵庫からビールを一本出して、栓を抜いた。それをそのまま、女の前に出してやる。
女は目を丸くして、アーヌラーリウスを見上げた。
「サービスだ。胸のムカムカは、これで飲み干すのがいい。……それか、汚いゲロと一緒に吐き出すか」
彼女は笑って、ビールの瓶を握った。そのまま、瓶に口をつけて喉を鳴らす。
その時、厨房からポレックスがやってきて、女の前にふんわりと焼き上げたオムライスを置いた。女はナイフを取り出すと、チキンライスの上に乗った、金色のオムレツに切れ込みを入れた。それをスプーンで丁寧に広げると、中から半熟に焼けた卵が溢れ出した。
それを口に運ぶと、彼女はアーヌラーリウスに目配せをした。
「悪くないわ。あれで、愛想がよければ文句なしね」
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