-0-

9/10
前へ
/195ページ
次へ
 登壇した議員は語尾を強めて、議事堂をぐるりと見回した。再び野党の野次が飛び交った。その議員はいくつかの質問を言い残して壇上を降りた。登壇した大統領は歯切れ悪く、質問に答えるが、それもまた、野次によって掻き消される。 「薄汚いハゲネズミっ」  目の前にいた女が、鋭い口調でそう口走った。  アーヌラーリウスの視線に気づくと、女は笑みを繕って、異様に白い右手をひらりと振った。 「気にしないで。独り言よ。公共の電波を使って、卑猥な想像を掻き立てるんだもの。いい気はしないわ」 「……」  アーヌラーリウスは黙ったまま頷いた。背後にある冷蔵庫からビールを一本出して、栓を抜いた。それをそのまま、女の前に出してやる。  女は目を丸くして、アーヌラーリウスを見上げた。 「サービスだ。胸のムカムカは、これで飲み干すのがいい。……それか、汚いゲロと一緒に吐き出すか」  彼女は笑って、ビールの瓶を握った。そのまま、瓶に口をつけて喉を鳴らす。  その時、厨房からポレックスがやってきて、女の前にふんわりと焼き上げたオムライスを置いた。女はナイフを取り出すと、チキンライスの上に乗った、金色のオムレツに切れ込みを入れた。それをスプーンで丁寧に広げると、中から半熟に焼けた卵が溢れ出した。  それを口に運ぶと、彼女はアーヌラーリウスに目配せをした。 「悪くないわ。あれで、愛想がよければ文句なしね」     
/195ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加