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美亜が顔を上げて、目が合った。
それだけで、嬉しくなる。
「やっと顔、見せてくれた」
自然と出たそれに、また美亜は顔を伏せてしまう。
さらりと落ちる髪を、美亜は耳に掛ける。
「……なに言ってんの? 別にわたしの顔なんて――」
美亜は途中で言葉を切った。
戻ってきた沈黙が、距離をまた戻してしまいそうで、彼女の名前を呼んだ。
「美亜?」そう呼び掛けた声は、早口になっていた。
「……なんでもない。
じゃあわたし行くね? 今日中に終わらせなきゃだから」
歩き出そうとした美亜の手首を、咄嗟に掴む。
こっちを向いてほしくて少し力を入れたのに、美亜は見ようとはしない。
「何?」
「終わったら連絡して? 迎えに来るから」
「……結構量あるし、何時に終わるかわかんないから」
「何時になってもいいから。待ってる」
断られたら、これ以上話し掛けないから。
ちゃんと理解するから。
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