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そうして、数十メートルくらい進んでから何気なく首を後ろへ向けると、早朝のまだ車も走っていない交差点を真っ黒い男の影が滑るようにして横断し、花束が供えられた電柱と重なるようにして消えるのを目撃してしまった。
“――ああ、やっぱり今の臭いはそういうことか”
影を見た兄は、その影を見た直後妙に納得した気分になったという。
その後、何度も同じ交差点を通ることがあったが、線香の臭いも黒い影も二度と遭遇することはなかったようで、
「……ひょっとしたらだけど、俺がその線香の臭い嗅いだ日って死んだ男の月命日とか、たまたまそういう日だった可能性もあるのかなって考えたりもしてんだよな。だからその日だけ変な体験したのかなってよ」
と、この話を聞かせてくれた最後に付け加えるようにそう呟いた。
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